「よし、絵を描いてみよう!」そう思い立ったとき、最初に立ちはだかるのが「画材選びの壁」かもしれません。「画材」と一言でいっても、絵具や鉛筆、紙、筆など、その種類は星の数ほど…。「何から揃えればいいの?」「それぞれの違いって何?」なんて、頭を抱えてしまう方も少なくないのではないでしょうか。
この記事では、そんなあなたの「?」を「!」に変えるべく、画材の基本的な知識から、それぞれの特徴、選び方の考え方まで、特定の”商品”は一切紹介せず、純粋な「お役立ち情報」だけをギュギュっと詰め込みました。初心者の方はもちろん、「もっと画材について深く知りたい!」という経験者の方にも、きっと新しい発見があるはずです。この記事をあなたの「画材選びの羅針盤」として、創作の第一歩を踏み出してみてくださいね!
まずは知りたい!画材の大きな分類
画材は、その役割によっていくつかのグループに分けることができます。まずは全体像を掴むために、どんな仲間たちがいるのか見ていきましょう。これを頭に入れておくと、画材店に行ったときも混乱しにくくなりますよ。
- 描画材(びょうがざい):色をつけたり、線を描いたりする、作品の主役となるものです。絵具や鉛筆、ペンなどがこれにあたります。
- 支持体(しじたい):絵を描くための土台となるものです。紙やキャンバス、板などが代表的ですね。
- 描画ツール:描画材を支持体に乗せるための道具です。筆やパレットナイフ、ペン先などが含まれます。
- 補助剤(ほじょざい):描画材の性質を変えたり、作品を保護したりする縁の下の力持ちです。メディウムや定着液などがあります。
- その他:制作をスムーズに進めるための道具類です。イーゼル(画架)やパレット、筆洗器などがこれにあたります。
このように、たくさんの仲間たちが協力し合って一つの作品が生まれるんですね。それでは、次の章からそれぞれのグループについて、もっと詳しく掘り下げていきましょう!
【描画材編】主役を選ぼう!絵具の種類と特徴
絵の印象を大きく左右するのが「絵具」です。どんな表現がしたいかによって、選ぶべき絵具も変わってきます。ここでは代表的な絵具の種類とその特徴をご紹介します。
透明水彩絵具
「水彩画」と聞いて多くの人がイメージするのが、この透明水彩絵具でしょう。その名の通り、透明感のある発色が最大の特徴です。水をたっぷり使って、にじみやぼかしを活かした、みずみずしい表現が得意です。絵具を重ねると下の色が透けて見えるので、計画的に塗り進める面白さがあります。
チューブに入ったものと、固形のものの2種類が主流です。チューブタイプはパレットに出して使います。色を混ぜやすく、広い面を塗るのに便利です。固形タイプは、小さなケースに絵具が固められていて、濡らした筆で表面を撫でて色を取ります。持ち運びに便利で、野外でのスケッチなどにも向いています。
光が紙を透過して、絵具の層を通って見えることで生まれる独特の美しさは、透明水彩ならではの魅力と言えるでしょう。
不透明水彩絵具(ガッシュ)
透明水彩が「下の色を透かす」のに対し、不透明水彩は「下の色を隠す」性質を持っています。「ガッシュ」という名前でも知られていますね。顔料の量が多く、アラビアガムという糊成分も多めに含まれているため、隠蔽力が高く、乾くとマットで落ち着いた質感になります。
下の色を気にせず上から色を重ねられるので、修正が比較的しやすいというメリットがあります。デザインやイラストレーションの分野でよく使われ、ポスターカラーもこの仲間です。くっきりとした、平面的な表現をしたいときに力を発揮します。「透明水彩はにじみがコントロールしにくくて難しい…」と感じる方が、こちらから試してみるのも一つの手かもしれません。
アクリル絵具
現代アートからホビーまで、幅広く使われているのがアクリル絵具です。最大の特徴は「乾くと耐水性になる」こと。一度乾いてしまえば水に溶けないので、色を重ねても下の色が溶け出す心配がありません。この性質を利用して、重厚な塗り重ねも、水で薄めて水彩画のような表現もできる、非常に懐の深い絵具です。
また、紙やキャンバスだけでなく、木、布、石、金属など、さまざまな素材に描けるのも大きな魅力です。乾燥が非常に速いので、スピーディーに制作を進めたい人には向いていますが、逆にゆっくり描きたい場合は、乾燥を遅らせる「リターダー」という補助剤を使うこともあります。まさに万能選手と呼べる絵具ですね。
油絵具
「絵画」と聞いて、ゴッホやモネのような重厚な作品を思い浮かべる方も多いでしょう。それらの多くは油絵具で描かれています。油絵具は、顔料を「油」で練って作られた絵具で、乾燥が非常に遅いのが特徴です。この「乾燥の遅さ」が、油絵具の最大の武器になります。
乾燥が遅いということは、キャンバスの上でじっくりと色を混ぜたり、ぼかしたり、一度塗った色をナイフで剥がしたりと、時間をかけて納得いくまで表現を追求できるということです。独特の光沢と深みのある発色、絵具を盛り上げたときの立体感(マチエール)は、油絵具ならではの表現力です。扱うには専用の油や溶剤が必要で、換気にも気をつける必要がありますが、その手間をかけるだけの価値がある、奥深い画材です。
日本画絵具
日本の伝統的な絵画で使われるのが日本画絵具です。主に、鉱石を砕いて作られる「岩絵具(いわえのぐ)」や、土や貝殻から作られる「水干絵具(すいひえのぐ)」などがあります。これらは粉末状の「顔料」そのもので、そのままでは紙に定着しないため、「膠(にかわ)」という動物性の接着剤を混ぜて使います。
岩絵具は、原料となる鉱石の粒子の大きさによって色の濃淡や輝きが変わり、キラキラとした独特の質感を生み出します。水干絵具はより粒子が細かく、マットでしっとりとした発色が特徴です。膠を溶いたり、顔料と混ぜたりと、描く前の準備に少し手間がかかりますが、その分、他の絵具にはない、落ち着きと気品のある表現が可能です。日本の美意識が詰まった、魅力的な画材です。
顔料と染料の違いって?
少し専門的な話になりますが、画材の色材には大きく分けて「顔料」と「染料」があります。この違いを知っておくと、画材選びの解像度がグッと上がりますよ。
- 顔料:色のついた粉で、水や油に溶けません。絵具やインクの中では、色の粒子が分散している状態です。紙の表面に糊(接着剤)の力でくっついているイメージです。一般的に耐光性(光による色褪せへの強さ)が高く、色が長持ちしやすいという長所があります。絵具のほとんどは、この顔料から作られています。
- 染料:水や溶剤に完全に溶けて、液体全体が均一に色づきます。紙の繊維一本一本に染み込んで色をつけるイメージです。鮮やかな発色が得意ですが、顔料に比べて光に弱く、時間とともに色褪せしやすい傾向があります。カラーインクやサインペンなどに使われることが多いです。
どちらが良い悪いというわけではなく、それぞれの特性を理解して、作品の用途(長く飾りたいのか、一時的なイラストなのかなど)に合わせて使い分けるのが賢い選択と言えるでしょう。
【描画材編】線で語ろう!鉛筆・ペン・木炭たち
色を塗る絵具だけでなく、線を描くための画材も作品作りには欠かせません。デッサンのようなモノクロームの世界から、イラストの輪郭線まで、線の表現は多岐にわたります。
鉛筆・デッサン鉛筆
最も身近な画材といえば、やはり鉛筆でしょう。デッサンで使われる鉛筆には「H」や「B」といった記号がついていますよね。これは芯の硬さを表しています。
- H系(Hard):芯が硬く、薄くシャープな線が描けます。数字が大きくなるほど硬く、薄くなります(9Hが最も硬い)。硬いので紙を傷つけやすい面もあります。精密な製図や、下書きの薄いアタリ線などに使われます。
- B系(Black):芯が軟らかく、濃く太い線が描けます。数字が大きくなるほど軟らかく、濃くなります(10Bなどが最も軟らかい)。濃淡の幅を出しやすく、デッサンではこのB系の鉛筆を数種類使い分けて立体感や質感を表現します。
- F(Firm):HとHBの中間の硬さです。
- HB:HとBの中間の硬さで、普段私たちが筆記用具としてよく使うものです。
デッサンを始めるなら、まずは4B、2B、HB、2Hあたりの数本を揃えて、それぞれの硬さでどんな線が描けるか試してみると、表現の幅がぐっと広がりますよ。
色鉛筆
手軽に色を扱える色鉛筆も、奥が深い画材です。主に「油性」と「水性」の2種類に分けられます。
油性色鉛筆は、ロウや油分を含んだ芯でできており、滑らかな描き心地と鮮やかな発色が特徴です。重ね塗りをしたり、異なる色を混ぜて新しい色を作ったり(混色)するのも得意です。テカテカとした光沢感が出るものもあります。
水彩色鉛筆は、一見すると普通の色鉛筆ですが、芯に水に溶ける成分が含まれています。そのため、描いた上から水を含んだ筆でなぞると、絵具のように色が溶けて水彩画のような表現ができるのが最大の特徴です。線画の表現と、水彩の表現を両方楽しめる、ハイブリッドな画材と言えますね。
木炭・コンテ
デッサンといえば鉛筆と並んでよく使われるのが、木炭やコンテです。これらは、より大胆でダイナミックな表現を可能にします。
木炭は、文字通り木を蒸し焼きにして作られた炭です。非常に軟らかく、サッと撫でるだけで紙に色が乗ります。指や布(ガーゼなど)でこすることで、簡単に美しいグラデーションを作れるのが魅力です。その反面、定着力が弱いので、触るとすぐに取れてしまいます。完成後は「定着液(フィキサチーフ)」を吹き付けて粉が落ちないように保護する必要があります。
コンテは、顔料を粘土で固めたものです。木炭よりも硬く、油分を含んでいるため、よりハッキリとした力強い線が描けます。黒だけでなく、白やセピア、赤茶色など、色のバリエーションがあるのも特徴です。木炭よりも定着力は強いですが、それでもやはり定着液を使った方が安心です。
ペン
ペン画やイラストの主線など、シャープな線が欲しいときに活躍するのがペンです。ペンにも様々な種類があります。
つけペンは、ペン先にインクをつけながら描くタイプのペンです。Gペンや丸ペンなど、ペン先の種類によって線の太さや強弱のつけやすさが変わります。筆圧によって線の表情が豊かに変化するのが魅力で、漫画家さんなどがよく使う道具です。インクを自由に変えられるのも利点ですね。
ミリペン(製図ペン)は、ペン先から一定の太さの線が常に出るように設計されたペンです。0.03mm、0.1mm、0.5mmなど、様々な太さのバリエーションがあります。均一な線を安定して引きたいときに便利で、製図やデザイン、イラストの枠線などに重宝します。
インクにも注目してみましょう。先ほど「顔料と染料」の話をしましたが、ペン用のインクにもこの2種類があります。顔料インクは乾くと耐水性になるものが多く、上から水彩絵具などを塗ってもにじみにくいという特徴があります。染料インクは鮮やかですが、水に濡れるとにじむことがあります。作品の仕上げ方を考えてインクを選ぶと良いでしょう。
【支持体編】どこに描く?紙やキャンバスの選び方
どんなに良い絵具や鉛筆があっても、それを受け止める「土台」がなければ作品は生まれません。この土台を「支持体(しじたい)」と呼びます。紙やキャンバスなど、支持体の種類も様々です。
スケッチブック・画用紙
最も手軽な支持体は、やはり紙でしょう。スケッチブックや画用紙を選ぶときには、いくつかのポイントがあります。
一つ目は「厚さ」です。紙の厚さは「g/㎡(グラム・パー・ヘイベイ)」という単位で表されます。これは、1平方メートルあたりの紙の重さのことで、数字が大きいほど厚い紙ということになります。水彩画のように水分を多く使う技法の場合、薄い紙だと波打ってしまったり、破れてしまったりすることがあります。そのため、ある程度厚みのある紙を選ぶのが一般的です。デッサンならそこまで厚くなくても大丈夫です。
二つ目は「紙目(かみめ)」です。紙の表面の凹凸のことで、「細目(ほそめ)」「中目(ちゅうもく)」「荒目(あらめ)」の3種類が基本です。
- 細目:表面が滑らかで、ペン画や精密な描写に向いています。水彩絵具は乾きが速い傾向があります。
- 中目:適度な凹凸があり、最も一般的でオールマイティな紙目です。初心者の方はまず中目から試してみるのがおすすめです。
- 荒目:凹凸が大きく、絵具が溜まることで独特のかすれや質感が生まれます。風景画などで効果を発揮します。
また、「水彩紙」「画用紙」「クロッキー帳」などもそれぞれ特性が違います。水彩紙は水に強い処理がされていたり、画用紙は比較的安価で練習用に適していたり、クロッキー帳は薄くてラフなスケッチに特化していたりします。描きたいものに合わせて選んでみましょう。
水彩紙の種類
水彩画を本格的に描くなら、水彩専用の紙についてもう少し知っておくと良いでしょう。水彩紙は、原料によって大きく「コットン紙」と「パルプ紙」に分けられます。
コットン紙は、綿(コットン)を原料として作られた高級な水彩紙です。非常に丈夫で、絵具の発色が良く、にじみやぼかしといった水彩技法が美しく表現できます。水の吸い込みが穏やかで、乾燥も比較的遅いため、じっくりと描き込むことができます。値段は高めですが、その描き心地と仕上がりは格別です。
パルプ紙は、木材パルプを原料とした水彩紙で、コットン紙に比べると安価です。発色はシャープで、水の吸い込みが速い傾向があります。そのため、絵具が乾きやすく、スピーディーな制作に向いています。練習用や、くっきりとした表現をしたい場合に適しています。
キャンバス
油絵具やアクリル絵具で描く際に使われる、布を木枠に張った支持体がキャンバスです。これも種類があります。
まず布の素材です。主流なのは「麻」と「綿(または綿と化学繊維の混紡)」です。麻は丈夫で伸縮しにくく、昔から油絵の支持体として使われてきました。目が粗く、独特の風合いがあります。綿は麻よりも安価で、目が細かく滑らかなので、細かい描写にも向いています。
次に地塗りの種類です。キャンバスの布には、絵具の乗りを良くし、油が布に染み込むのを防ぐために、白い地塗り材が塗られています。これには「油性」と「アクリル性」があります。油性の地塗りは油絵具専用です。アクリル性の地塗りは、アクリル絵具はもちろん、油絵具も描ける兼用タイプで、現在はこちらが主流になっています。
キャンバスのサイズは「号数(ごうすう)」で表されます。F(Figure:人物)、P(Paysage:風景)、M(Marine:海景)、S(Square:正方形)といったアルファベットと数字の組み合わせで規格化されており、数字が大きくなるほどサイズも大きくなります。
その他の支持体
紙やキャンバス以外にも、様々な支持体があります。
イラストボードは、厚い台紙に画用紙や水彩紙を貼り付けたもので、水を使っても波打ちにくく、平滑な画面を保ちやすいのが特徴です。そのまま飾ることもでき、イラスト制作などで重宝されます。
木製パネルも支持体として使われます。特に日本画では、和紙をパネルに貼り付けた「水張りパネル」が使われます。木製パネルに直接アクリル絵具で描いたり、ジェッソという地塗り材を塗って油絵を描いたりすることも可能です。硬く平滑な画面は、独特の表現を生み出します。
【ツール編】表現を豊かにする道具たち
良い描画材と支持体を選んだら、次はその二つを繋ぐ「ツール」の出番です。筆やパレットといった道具たちも、作品の出来栄えを左右する重要な要素です。
筆の種類と選び方
筆と一言でいっても、毛の種類や穂先の形で様々なバリエーションがあります。
まず毛の種類です。大きく分けて「動物毛」と「人工毛(ナイロンなど)」があります。
- 動物毛:イタチ(コリンスキー)、リス、馬、豚など、様々な動物の毛が使われます。一般的に、絵具の含みが良く、しなやかな描き心地が特徴です。例えば、コリンスキーは弾力とまとまりに優れ、リス毛は非常に柔らかく水の含みが良いなど、毛の種類によって特性が異なります。
- 人工毛:ナイロンやPBTといった化学繊維で作られた筆です。動物毛に比べて耐久性が高く、手入れがしやすいのが利点です。価格も手頃なものが多く、近年では技術の進歩により、動物毛に近い性能を持つものも増えています。特に、アクリル絵具は乾燥すると固まって筆を傷めやすいので、丈夫な人工毛の筆がよく使われます。
次に穂先の形状です。代表的なものをいくつかご紹介します。
- 丸筆(ラウンド):穂先が尖っていて、細い線から太い線まで、筆の角度や力加減で描き分けられます。最も基本的な形状で、様々な用途に使えます。
- 平筆(フラット):穂先が平らで、広い面を均一に塗ったり、エッジの効いたシャープな線を描いたりするのに向いています。
- フィルバート:平筆の角が丸くなったような形状です。平筆の面塗りのしやすさと、丸筆の柔らかな表現を併せ持っています。
水彩用、油彩用、アクリル用と、絵具によっても適した筆があります。水彩筆は水の含みが良い柔らかい毛、油彩筆やアクリル筆は粘りのある絵具に負けないコシの強い毛が使われることが多いです。自分が使う絵具に合わせて選びましょう。
パレット
絵具を出して色を混ぜるためのパレット。これも材質によって使い勝手が変わります。
プラスチック製のパレットは、安価で軽く、手に入れやすいのが魅力です。ただし、アクリル絵具は乾くとこびりついて取れにくくなることがあります。また、長く使っていると表面に傷がつき、色が染み込んでしまうこともあります。
陶器製のパレット(絵皿)は、重さがあって安定しており、表面が滑らかなので色が混ざりやすく、洗い流すのも簡単です。水彩絵具を使う人には特に人気があります。ただし、割れ物なので取り扱いには注意が必要です。
木製のパレットは、主に油絵具で使われます。手に持って使うことを想定した形状のものが多く、映画などで画家が持っているイメージがありますよね。使う前に油を染み込ませて手入れをすることで、絵具が染み込みにくくなり、長く使えます。使い込んだパレットには、その人の色の歴史が刻まれていきます。
ペインティングナイフ・パレットナイフ
これらは一見似ていますが、主な用途が異なります。
パレットナイフは、その名の通り、主にパレットの上で絵具を混ぜ合わせるために使います。ヘラの部分が比較的まっすぐで、長さのあるものが多いです。
ペインティングナイフは、直接キャンバスに絵具を塗るために使います。ヘラに弾力があり、首の部分がクランク状に曲がっているため、手が画面に触れずに作業できます。絵具を盛り上げて力強い質感を出す、シャープな線で削り取るなど、筆とは全く違う表現が可能です。油絵具やアクリル絵具で、表現の幅を広げたいときに活躍するツールです。
イーゼル(画架)
キャンバスやパネルを立てかけて描くための台がイーゼルです。作品と正対して、全体のバランスを見ながら描くためには欠かせない道具と言えるでしょう。
室内用のイーゼルは、安定性を重視した、しっかりとした作りのものが多いです。木製やスチール製などがあります。高さや角度を細かく調整できるものが便利です。
野外用のイーゼルは、持ち運びやすさを考えて、軽量なアルミ製などで、折りたたんでコンパクトになるものが主流です。三脚のような形状のものが多いですね。軽さゆえに安定性には少し欠けるので、風の強い日などは注意が必要です。
自分の制作スタイル(家でじっくり描くのか、外にスケッチに出かけるのか)や、描く作品のサイズに合わせて選びましょう。
【補助剤編】表現を広げる魔法の液体「メディウム」
ちょっと専門的になりますが、画材の世界を深く知る上で欠かせないのが「補助剤」の存在です。特に「メディウム」と呼ばれるものは、絵具の性質を様々に変化させ、表現の可能性を無限に広げてくれる魔法のようなアイテムです。
メディウムって、そもそも何?
メディウムとは、簡単に言うと「絵具に混ぜて使う、糊や添加剤の役割を持つ液体やペースト」のことです。絵具のツヤを出したり消したり、透明度を上げたり、乾燥を速めたり遅めたり、盛り上げられるように硬くしたりと、その効果は多岐にわたります。絵具は「顔料」と「展色材(顔料を固めている糊)」でできていますが、メディウムは、この展色材の仲間と考えると分かりやすいかもしれません。これを使いこなせると、まさに「自分だけの絵具」を作り出すことができます。
水彩絵具のメディウム
透明水彩絵具にも、表現を助けるメディウムがあります。
- マスキング液(マスキングインク):塗った部分が乾くとゴム状になり、上から絵具を塗ってもその部分だけ白く残すことができる液体です。細かいハイライトなどを白抜きしたいときに非常に便利です。絵具が乾いた後、指やラバークリーナーでこすると剥がせます。
- オックスゴール:牛の胆汁から作られる界面活性剤です。水彩絵具に数滴混ぜると、絵具の伸びが良くなったり、紙への弾きを抑えたりする効果が期待できます。
- アラビアゴム液:透明水彩絵具の展色材そのものです。これを絵具に混ぜると、透明度や光沢を増すことができます。
アクリル絵具のメディウム
アクリル絵具はメディウムの種類が非常に豊富で、これがアクリル絵具の表現の幅広さを支えています。
- グロスメディウム/マットメディウム:絵具に混ぜることで、ツヤを出したり(グロス)、ツヤを消したり(マット)できます。絵具の透明度を上げる効果もあります。
- リターダー:乾燥を遅らせるメディウムです。アクリル絵具の速乾性を和らげ、油絵具のように画面上でゆっくり色を混ぜたいときに使います。
- ジェルメディウム:絵具に粘り気と透明感を与えます。ツヤのある盛り上げ表現などに使われます。
- モデリングペースト:盛り上げ用の地塗り材です。これを塗った上に着彩することで、立体的な下地を作ることができます。炭酸カルシウムの粉末が主成分で、乾くと硬く、マットな白色になります。ナイフやヘラで形を作ることもできます。
これらはほんの一例で、他にも様々な効果を持つメディウムが存在します。色々試してみることで、自分だけの表現が見つかるかもしれません。
油絵具の画用液(オイル)
油絵具を扱う上で必須となるのが、専用の「画用液(オイル)」です。これも補助剤の一種と言えます。主に「揮発性油」と「乾性油」の2種類を混ぜて使います。
揮発性油(テレピン、ペトロールなど)は、絵具を溶いて粘度を調整する役割があります。その名の通り、揮発して画面からなくなります。描き始めの、薄く溶いた絵具で下描きをするときなどによく使われます。
乾性油(リンシードオイル、ポピーオイルなど)は、空気中の酸素と結合して固まる(乾燥する)性質を持つ油です。絵具の固着力を高め、光沢を与えます。絵具の主成分でもあります。
この二つを混合した「調合溶き油(ペインティングオイル)」も市販されています。油絵具を描く上では、「肥痩(ひそう)の法則」という大事なルールがあります。これは「描き始めは揮発性油を多めに、描き進めるにつれて乾性油の割合を増やしていく」というものです。これを守らないと、後から塗った層が先に乾いてしまい、後々ひび割れなどの原因になることがあります。少し難しいですが、油絵具を長く楽しむためには大切な知識です。
定着液(フィキサチーフ)
鉛筆や木炭、パステルなど、粉状で定着力の弱い描画材を使った作品は、触ると粉が取れて絵が汚れてしまいます。それを防ぐために、完成した作品の上から吹き付けて、粉を画面に固定するためのスプレーが「定着液(フィキサチーフ)」です。スプレータイプが一般的で、作品から少し離して、全体に均一に吹き付けて使います。これを使うことで、作品を長期間美しい状態で保存しやすくなります。
これで安心!画材の保管方法と手入れの基本
お気に入りの画材を手に入れたら、できるだけ長く、良い状態で使いたいですよね。そのためには、日々のちょっとした手入れと、正しい保管がとても大切です。ここでは基本的なお手入れと保管のコツをご紹介します。
絵具の保管
チューブに入った絵具は、使い終わったらキャップをしっかりと締めることが何よりも重要です。キャップの周りに付いた絵具はきれいに拭き取っておきましょう。これを怠ると、絵具が固まってキャップが開かなくなったり、チューブの中で絵具が乾燥してしまったりする原因になります。特にアクリル絵具は乾燥が速いので注意が必要です。
固形水彩絵具は、使い終わったらティッシュなどで余分な水分を拭き取り、パレットの蓋を開けたままにして、しっかりと自然乾燥させてからしまいましょう。濡れたまま蓋をすると、カビの原因になることがあります。
筆の洗い方と保管
筆は、使い方と手入れ次第で寿命が大きく変わる、デリケートな道具です。
水彩絵具やアクリル絵具の場合、使い終わったらすぐに水で洗い流します。特にアクリル絵具は、乾くと耐水性になってしまうため、制作の途中でも筆が乾かないように水につけておくなど、注意が必要です。根元に残った絵具は、石鹸や専用のブラシクリーナーを使って優しく洗い流します。洗い終わったら、指で穂先を優しく整え、風通しの良い場所で吊るして乾かすのが理想的です。穂先を下に向けて乾かすことで、根元に水分が溜まって筆を傷めるのを防ぎます。
油絵具の場合は、まず布や新聞紙で余分な絵具を拭き取り、ブラシクリーナー(筆洗油)で絵具を洗い流します。クリーナーの中で筆を優しく揺すって洗い、最後にもう一度布で拭き取ります。その後、石鹸とぬるま湯で根元に残った油分を丁寧に洗い流し、水彩筆と同様に穂先を整えて乾かします。
保管する際は、穂先が曲がったり潰れたりしないように、筆立てに立てるか、専用の筆巻き(ロールケース)などに入れて保管しましょう。
紙・作品の保管
紙や完成した作品は、湿気と直射日光、そして酸が大敵です。これらは紙の劣化や黄ばみ、色褪せの原因となります。
保管場所としては、温度や湿度の変化が少なく、光が当たらない場所が適しています。押し入れやクローゼットなどが良いでしょう。作品を重ねて保管する場合は、薄紙(合紙)を間に挟むと、作品同士が擦れたり、絵具がくっついたりするのを防げます。
たくさんの作品を保管するには、ポートフォリオと呼ばれる、作品を収納するための大きなファイルケースが便利です。大切な作品を良い状態で長く楽しむために、保管環境にも少しだけ気を配ってみてくださいね。
画材選びでよくある質問(Q&A)
ここでは、画材選びを始めたばかりの方が抱きがちな、素朴な疑問にお答えするQ&Aコーナーです。
最初に揃えるべき最低限の画材は何ですか?
描きたいものによりますが、例えば「透明水彩で簡単なイラストを描きたい」という場合なら、以下のものを基本に考えると良いでしょう。
- 描きたい色が揃っている絵具セット(最初は12色程度でも十分楽しめます)
- 水彩用のスケッチブック(中目あたりが使いやすいです)
- 水彩筆(丸筆の中くらいのサイズが一本あると便利です)
- パレット(牛乳パックを開いたものなどでも代用できます)
- 筆洗器(空き瓶などでOKです)
- 下描き用の鉛筆(HBなど)と練り消しゴム
まずは「これだけあれば描ける」という最小限のセットから始めて、必要に応じて少しずつ買い足していくのがおすすめです。いきなり高価なものを全て揃える必要は全くありませんよ。
画材はどこで買うのがいいですか?
画材は、街の文房具店や画材専門店、大型雑貨店、そしてオンラインストアなどで購入できます。それぞれに良い点があります。
画材専門店は、品揃えが豊富で、専門知識を持った店員さんに相談できるのが最大の魅力です。紙を一枚から買えたり、珍しい画材に出会えたりする楽しさもあります。
オンラインストアは、家にいながら手軽に探せて、価格を比較しやすいのが利点です。レビューを参考にできるのも嬉しいポイントですね。ただし、紙の質感や絵具の実際の色味など、実物を見ないと分からない部分もあります。
最初は専門店で実物を見ながら店員さんに話を聞き、慣れてきたらオンラインストアも活用する、といった使い分けが良いかもしれません。
「初心者用セット」は買ったほうがいいですか?
「初心者用」「入門用」として販売されている画材セットは、その画材を始めるのに必要なものが一通り揃っているので、何を買えばいいか全く分からないという方にとっては、とても便利な選択肢です。自分で一つ一つ選ぶ手間が省けます。
一方で、セット内容はメーカーによって決められているため、中にはあまり使わない色や道具が入っている可能性もあります。もし描きたいもののイメージがはっきりしているなら、少し手間はかかりますが、必要なものだけを自分で選んで(バラで)購入する方が、結果的に無駄なく揃えられることもあります。
画材の値段の違いは何ですか?
同じ種類の画材でも、価格に大きな幅があることがあります。この価格差は、主に「品質」によって生まれます。
例えば絵具の場合、価格が高いものは、高品質で高価な顔料を贅沢に使っていることが多いです。そのような絵具は、発色が良く、耐光性(色褪せにくさ)にも優れている傾向があります。一方、安価な絵具は、顔料の代わりに体質顔料(色のない粉)や染料を多く使っていることがあり、発色や耐光性の面ではハイグレードなものに及ばない場合があります。
筆であれば、希少な動物の毛を使っているか、職人が手作業で仕上げているか、といった点が価格に影響します。紙であれば、原料(コットンかパルプか)や製法が価格を左右します。一般的に、価格と品質はある程度比例すると考えて良いでしょう。ただし、必ずしも「高価なものが一番良い」というわけではなく、自分の目的やレベル、予算に合わせて、納得できるものを選ぶことが大切です。
子供用の画材と大人用の画材の違いは?
主な違いは、「安全性への配慮」と「品質」にあります。
子供向けの画材(学童用など)は、子供が誤って口に入れてしまう可能性などを考慮し、安全性の高い原材料で作られていることが多いです。また、落としても壊れにくい、キャップが開けやすいなど、子供が扱いやすいように工夫されています。
一方、大人向け(専門家用)の画材は、発色や耐久性、耐光性といった、作品の仕上がりを左右する「品質」を最優先に作られています。そのため、中には特定の金属を含む顔料など、取り扱いに注意が必要な原材料が使われていることもあります。もちろん、専門家用の画材も安全基準に基づいて作られていますが、想定されている使い方が異なると言えるでしょう。
まとめ
ここまで、本当にたくさんの画材の種類や特徴、使い方についてお話ししてきました。情報量が多すぎて、少し頭がパンクしてしまったかもしれませんね。でも、大丈夫です。一度にすべてを覚える必要はありません。
この記事でお伝えしたかった一番大切なことは、「画材選びには、たった一つの正解はない」ということです。あなたの描きたいもの、表現したいこと、そして「なんだかこれ、面白そう!」と感じる好奇心。それらが、あなたにとっての最高の画材選びの指針になります。
水彩の透明感に惹かれますか?それとも油絵具の重厚なマチエールに挑戦してみたいですか?まずは手軽な鉛筆デッサンから始めてみるのも、素晴らしいスタートです。この記事は、あなたが画材の森で道に迷ったときに、いつでも戻ってこられる地図のようなものでありたいと願っています。
完璧な道具を揃えることよりも、まずは一本の線を描き、一つの色を置いてみることのほうが、ずっと重要です。画材選びは、それ自体が創造的な活動の一部。ぜひ、楽しみながら、自分だけの最高のパートナーを見つける旅に出かけてください。あなたの創作活動が、豊かで楽しいものになることを、心から応援しています!

