はじめに:軍手って、実はすごいんです!
「軍手」と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?おそらく、多くの人が学校の大掃除や地域の清掃活動で使った、あの白い編み手袋を思い浮かべるのではないでしょうか。「安くて、汚れたら気軽に捨てられる手袋」くらいの認識かもしれませんね。でも、実はその世界は、私たちが思っているよりもずっと奥深く、そして多種多様なんです!
私たちの暮らしの様々な場面で、縁の下の力持ちとして活躍してくれている軍手。ガーデニングやDIYといった趣味の時間から、引越しや本格的な建設現場まで、その用途は実に幅広いです。そして、それぞれの用途に合わせて、素材や編み方、滑り止めの加工などが工夫された、たくさんの種類の軍手が存在します。
この記事では、特定の商品をおすすめしたり、ランキング形式で紹介したりすることは一切ありません。そういった宣伝記事ではなく、純粋に「軍手」というアイテムそのものにスポットライトを当て、皆さんの「知りたい!」に答えるための、お役立ち情報だけをギュッと詰め込みました。軍手の名前の由来といった豆知識から、プロが現場で使うような専門的な軍手の種類、そして日々の生活で役立つ選び方やお手入れの方法まで、徹底的に解説していきます。
「なんとなく」で選んでいた軍手も、この記事を読み終わる頃には、きっとあなたの作業にピッタリの「相棒」として、意識的に選べるようになっているはずです。さあ、一緒に軍手のディープな世界を探検しに出かけましょう!
まずは知りたい!軍手のキホン
何事も基本が大事!ということで、まずは軍手の基本的な知識からおさらいしていきましょう。「そんなの知ってるよ~」という方も、意外な発見があるかもしれませんよ。
軍手の定義とは?
そもそも、「軍手」とは一体何なのでしょうか。その名前の由来は、「軍人用手袋」の略称であるという説が最も有力です。旧日本軍の兵士たちが、作業や訓練の際に手を保護するために使っていた白い綿の手袋が、そのルーツだと言われています。丈夫で、安価で、大量生産に適していたことから、軍隊で重宝されたんですね。
戦後、それらが民間に普及し、工場での作業や土木作業など、様々な「働く現場」で使われるようになりました。今では「作業用手袋の代名詞」ともいえる存在ですが、厳密に言うと、軍手は「作業用手袋」という大きなカテゴリの中の一つの種類です。一般的には、綿やポリエステル、あるいはそれらの混紡素材をメリヤス編み(ニット編み)にした、縫い目のないシームレスな手袋のことを指します。革手袋や、ゴムだけで作られた手袋は、普通「軍手」とは呼びません。
あの独特のフィット感と、指の動かしやすさは、縫い目がないシームレス構造のおかげなんですね。まさに、シンプルながらも機能性を突き詰めた形と言えるでしょう。
軍手の主な役割とメリット
軍手がこれほどまでに広く使われているのには、もちろん理由があります。ここでは、軍手が持つ主な役割と、たくさんのメリットについて見ていきましょう。
- 手の保護:これが最も重要な役割です。作業中の切り傷や擦り傷、棘(とげ)が刺さることから手を守ります。また、土や油、塗料などの汚れが直接手に付くのを防いでくれます。厚手のものなら、多少の衝撃を和らげる効果も期待できます。
- 滑り止め効果:特に滑り止め加工が施された軍手は、物を持ったり、道具を使ったりする際のグリップ力を高め、作業効率をアップさせます。荷物を運ぶ時など、しっかり掴める安心感は大きいですよね。
- 怪我の防止:グリップ力が高まることで、道具の取り回しが安定し、思わぬ事故を防ぐことにも繋がります。また、熱いものを持つときや、冷たいものに触れるときに、急激な温度変化から手を守る役割も果たします。
- 衛生:共同で使う道具や、不特定多数の人が触れるものを扱う際に、直接触れずに済むため衛生的です。清掃活動などで重宝される理由の一つですね。
- コストパフォーマンス:何と言っても、安価で手に入りやすいのが大きな魅力です。ホームセンターやコンビニ、スーパーなど、どこでも手軽に購入できます。
- 通気性:編み物であるため通気性が良く、長時間着用していても汗で蒸れにくいという特徴があります。これは、夏場の作業や、汗をかきやすい方にとっては嬉しいポイントです。
- 経済性:汚れたら洗濯して、繰り返し使うことができます。使い捨ての手袋に比べて経済的で、環境への負荷も少ないと言えるでしょう。
このように、軍手は「安いだけ」の手袋ではなく、作業の安全性と快適性を高めるための、多くの優れた点を持っているのです。
知ってる?「ゲージ」という単位
軍手を選んでいると、「7G」とか「10ゲージ」といった表記を目にすることがあります。この「G」や「ゲージ」という単位、一体何を表しているかご存知でしょうか?
これは、手袋の編み目の細かさ(密度)を表す単位です。具体的には、手袋を編む機械の、1インチ(約2.54cm)あたりに並んでいる針の数を指します。つまり、ゲージ数が大きいほど編み目が細かく、ゲージ数が小さいほど編み目が粗くなります。
このゲージの違いが、軍手の性能や使い心地に大きく影響してくるんです。主なゲージとその特徴をまとめてみましょう。
7ゲージ(7G)
いわゆる「普通の軍手」として、最も一般的に見かけるタイプです。編み目が粗く、糸が太いのが特徴です。ザックリとした編み方なので、通気性に優れています。また、糸が太い分、生地が厚手になり、クッション性が高く、耐久性にも優れています。土木作業や解体作業、重いものを運ぶ作業など、ハードな現場で手の保護を優先したい場合に向いています。ただし、編み目が粗いため、細かい砂や土、液体などは侵入しやすいという側面もあります。
10ゲージ(10G)
7ゲージよりも編み目が細かく、生地も少し薄手になります。フィット感が向上し、指先の感覚も7ゲージよりは伝わりやすくなります。そのため、保護性と作業性のバランスが取れたタイプと言えます。一般的な軽作業、機械の組み立て、農作業、DIYなど、幅広い用途に対応できるオールラウンダーです。どのゲージを選べばいいか迷ったら、まず10ゲージを試してみるのが良いかもしれません。
13ゲージ(13G)
かなり編み目が細かく、生地は薄手になります。その最大の特徴は、素手に近いフィット感と、優れた指先の感覚です。まるで第二の皮膚のように手に馴染むため、ネジを締めるといった精密な作業や、製品の検査、品質管理など、指先の繊細な感覚が求められる作業に最適です。生地が薄い分、7ゲージのようなクッション性や耐久性は劣りますが、作業効率を格段に上げてくれるポテンシャルを秘めています。
その他のゲージ
さらに細かい15ゲージや18ゲージといったものも存在します。これらは、より精密な作業や、医療現場に近いクリーンな環境での作業などで使われることがあります。逆に、5ゲージといった、さらに厚手で頑丈なタイプもあります。
このように、ゲージの違いを理解するだけで、自分の作業目的に合った軍手を選びやすくなります。「なんとなく厚手だから」ではなく、「今回はハードな作業だから7ゲージにしよう」「細かい作業だから13ゲージが必要だ」というように、論理的に軍手選びができるようになるのです。
素材が違えば使い方も変わる!軍手の素材を徹底解説
軍手の性能を決めるもう一つの大きな要素、それが「素材」です。ゲージ(編み目の細かさ)が同じでも、使われている糸の素材が違えば、その特性は全く変わってきます。ここでは、軍手によく使われる代表的な素材と、その特徴をじっくり解説していきます。
定番中の定番!「綿(コットン)」
古くから軍手の素材として使われてきた、まさに王道ともいえる素材です。Tシャツや下着にも使われる素材なので、その特徴はイメージしやすいかもしれませんね。
綿素材の特徴とメリット
吸湿性・通気性に優れているのが最大の特徴です。作業中に汗をかいても、水分をしっかり吸収してくれるため、手袋の中がベタつきにくく、快適な状態を保ちやすいです。また、編み物である軍手そのものの通気性と相まって、蒸れにくいというメリットもあります。肌触りも柔らかく、化学繊維が苦手な方でも安心して使いやすいでしょう。
そして、もう一つ見逃せないのが熱に強いという点です。ポリエステルなどの化学繊維は熱で溶けやすいですが、綿は比較的高い温度まで耐えることができます。そのため、バーベキューで熱い串を持ったり、焚き火の薪をくべたりするような、火を扱うアウトドアシーンでも活躍してくれます。また、静電気が発生しにくいという特性もあり、静電気を嫌う作業にも向いています。
綿素材のデメリットと注意点
一方で、デメリットもあります。吸湿性が高いことの裏返しで、一度濡れると乾きにくいという性質があります。水に濡れる作業にはあまり向いていません。また、油分を吸収しやすく、一度付いた油汚れは落ちにくいです。繊維自体はそれほど強くないため、摩耗には比較的弱く、ハードな作業で使うと破れやすいこともあります。
綿素材が向いている作業
- 一般的な軽作業全般
- 汗をかきやすい夏場の作業
- 農業、園芸、草むしり
- バーベキュー、キャンプファイヤーなど火を扱う軽作業
- 肌がデリケートな方の軽作業
安価で丈夫!「ポリエステル」
現在、最も多くの軍手で使われているのが、このポリエステルをはじめとする化学繊維です。安価で高機能なため、様々な場面で重宝されています。
ポリエステル素材の特徴とメリット
ポリエステルの特徴は、何と言ってもその強度と耐久性です。綿に比べて摩耗に強く、繰り返し洗濯してもヨレたり縮んだりしにくいです。また、繊維そのものが水分をほとんど吸わないため、速乾性に非常に優れています。濡れてもすぐに乾くので、水を使う清掃作業などでも便利です。薬品にも比較的強く、汚れが落ちやすいのも嬉しいポイント。そして、大量生産に向いているため、非常に安価に手に入れることができます。
ポリエステル素材のデメリットと注意点
速乾性が高い反面、吸湿性が低いのがデメリットです。汗を吸わないため、手袋の中が蒸れやすく、人によっては不快に感じることがあります。また、最大の注意点は熱に弱いことです。火の粉が飛んだだけで穴が開いたり、高温の物に触れると溶けてしまったりすることがあるため、火を扱う作業には絶対に使用しないでください。
ポリエステル素材が向いている作業
- 清掃作業、洗車
- 引越し、荷運び
- 一般的な軽作業(汚れやすいもの)
- とにかくコストを抑えたい場合
フィット感抜群!「ナイロン」
ストッキングなどにも使われるナイロンも、軍手の素材として非常に優秀です。特に、薄手でフィット感が求められる軍手によく採用されています。
ナイロン素材の特徴とメリット
ナイロンの魅力は、そのしなやかさと高い伸縮性です。手に吸い付くようにフィットし、指先の感覚を損ないにくいのが最大の特徴。それでいて、摩耗強度も非常に高いため、薄くても丈夫です。ホコリやゴミが出にくい「低発塵性」という特徴もあり、クリーンな環境での作業にも適しています。
ナイロン素材のデメリットと注意点
ナイロンもポリエステルと同様に化学繊維なので、熱には弱いです。また、吸湿性も低いため蒸れやすい傾向があります。長期間、日光(紫外線)に当たっていると黄ばんだり、強度が低下したりする「黄変」という現象が起きやすいのも特徴です。
ナイロン素材が向いている作業
- 精密機器の組み立て、検査
- 品質管理、検品作業
- 果物の収穫など、傷をつけたくないものを扱う作業
- 指先の感覚を活かしたい細かな作業全般
綿とポリエステルのいいとこ取り!「混紡(こんぼう)」
「綿の吸湿性も欲しいけど、ポリエステルの丈夫さも捨てがたい…」そんな悩みに応えてくれるのが、これらの素材を混ぜて作った「混紡」素材です。「T/C」や「CVC」といった表記で表されることもあります(Tはテトロン=ポリエステルのこと、Cはコットンのこと)。
混紡素材の特徴とメリット
綿とポリエステルを混ぜ合わせることで、まさに両方の長所を併せ持つ、バランスの取れた素材になります。綿の持つ吸湿性・通気性と、ポリエステルの持つ強度・速乾性を、いいとこ取りしているわけです。洗濯しても乾きやすく、シワになりにくく、それでいて綿の風合いも少し感じられる。現在、市場に流通している軍手の多くは、この混紡素材で作られています。
混紡素材のデメリットと注意点
バランスが良い反面、綿100%の吸湿性や、ポリエステル100%の速乾性には一歩及ばない、という見方もできます。あくまで「バランス型」なので、どちらかの性能に特化したい場合には、純粋な素材のものが適していることもあります。また、ポリエステルが含まれているため、やはり熱には注意が必要です。
混紡素材が向いている作業
- DIY、日曜大工
- 物流、倉庫内作業
- 一般的な軽作業全般
- どの素材にすれば良いか迷ったとき
その他にもある!特殊な素材
一般的な軍手だけでなく、特定の性能に特化した「高機能手袋」には、さらに特殊な素材が使われています。
- ポリウレタン:ゴムのように非常に高い伸縮性を持つ素材です。「スパンデックス」という名前でも知られています。ナイロンなどと組み合わせて使うことで、驚くほどのフィット感を生み出します。また、手のひらの滑り止めコーティングにもよく使われ、薄くてもグリップ力が高く、耐摩耗性にも優れています。
- アラミド繊維:代表的なものに「ケブラー®」などがあります。同じ重さの鋼鉄の数倍とも言われるほどの引っ張り強度を誇り、熱にも非常に強い「スーパー繊維」です。この繊維で作られた手袋は、刃物やガラス片などによる切り傷を防ぐ「耐切創手袋」として、解体作業や産廃処理、ガラス工業などの現場で活躍します。
- ビニロン:日本で開発された合成繊維で、強度が高く、特に耐候性に優れています。漁業で使うロープや網にも使われるほど丈夫で、屋外でのハードな作業に向いています。
素材の世界は本当に奥が深いですね。自分の作業環境や求める性能に合わせて素材を選ぶことが、快適な作業への第一歩です。
ただ編んだだけじゃない!軍手の加工と機能
軍手の進化は、素材や編み方だけにとどまりません。作業の効率と安全性をさらに高めるために、様々な「加工」が施されています。ここでは、軍手にプラスアルファの機能を与える、代表的な加工について見ていきましょう。
滑り止め加工のいろいろ
軍手と言えば、手のひらに付いたブツブツの滑り止めを思い浮かべる人も多いでしょう。あれがあるだけで、グリップ力は格段に向上します。この滑り止め加工にも、いくつかの種類があるんです。
ドット(点)状滑り止め
最もポピュラーなのが、塩化ビニル樹脂(PVC)の小さな粒々を、手のひらや指先に点々と付着させたタイプです。「イボ付き軍手」なんて呼ばれ方もしますね。このタイプのメリットは、通気性を損ないにくいことです。手袋全面を覆っているわけではないので、編み目からの空気の出入りが妨げられず、蒸れにくいのです。一般的な荷運びや軽作業で、グリップ力を少しプラスしたい場合に手軽で使いやすいタイプです。
手のひらコーティング
手のひら全体を、ゴムや樹脂でコーティングしたタイプです。「背抜き手袋」とも呼ばれます。手の甲側はコーティングされていないため、通気性を確保しつつ、手のひら側は強力なグリップ力と保護性能を発揮します。コーティングによって、細かな土や液体が手袋内部に染み込みにくくなるというメリットもあります。使われる樹脂の種類によって、さらに特徴が分かれます。
| コーティング素材 | 特徴 |
| 天然ゴム | 伸縮性に富み、柔らかいのが特徴です。低温下でも硬くなりにくく、グリップ力、特に引き裂きに対する強度に優れています。ただし、油類に触れると劣化しやすいという弱点があります。運送業や倉庫業、農作業などで広く使われています。 |
| ニトリルゴム(合成ゴム) | 最大の特徴は、優れた耐油性・耐薬品性です。ガソリンや機械油、薬品などに触れても劣化しにくいため、機械整備や金属加工、化学薬品を扱う作業などでその性能を発揮します。突き刺しや摩耗に対する強度も高いです。 |
| ポリウレタン樹脂 | 薄くても丈夫で、非常に柔らかく、手にしなやかにフィットします。コーティングしても指先の感覚が損なわれにくいため、細かい部品を扱う精密作業や、製品の組み立て、検査作業などに最適です。独特のゴム臭が少ないのも特徴です。 |
このように、同じコーティング手袋でも、素材によって得意な作業が全く異なります。自分の作業で「何を相手にするのか」(段ボールなのか、油の付いた部品なのか)を考えることが、最適な一双を選ぶカギになります。
色付き軍手の意味、知ってる?
軍手というと「白」のイメージが強いですが、実は様々な色の軍手があります。そして、その色にはちゃんと意味があることが多いのです。
手首の「オーバーロック」の色
軍手の手首の部分を見ると、ほつれ止めのためにかがり縫いがされています。これを「オーバーロック」と呼びますが、この糸の色が違うことに気づいたことはありませんか?実はこれ、サイズや素材、あるいはメーカーごとの品番を識別するために色分けされていることが多いのです。例えば、「Mサイズは青、Lサイズは緑、LLサイズは黄色」というように、一目見ただけでサイズがわかるように工夫されています。これにより、たくさんの軍手が混在する工場などでも、自分のサイズのものを簡単に見つけることができます。(※この色分けのルールは、メーカーや業界によって異なる場合があります。)
手袋本体の色
手袋そのものに色が付いている場合にも、理由があります。
- 汚れを目立たなくするため:グレーや紺、黒といった色の軍手は、油汚れや土汚れが付いても目立ちにくいというメリットがあります。自動車整備や機械作業などで好まれます。
- 視認性を高めるため:蛍光イエローやオレンジといった派手な色の軍手は、薄暗い場所や、交通整理、建設現場などで、自分の手の位置を周りに知らせるために使われます。これにより、接触事故などを防ぐ効果が期待できます。
- 異物混入対策のため:食品工場などで、青い手袋が使われているのを見たことはありませんか?これは、自然界の食材にはほとんど存在しない「青色」を使うことで、万が一、手袋の破片などが食品に混入してしまった際に、発見しやすくするためです。衛生管理への高い意識の表れなんですね。
ただのデザインではなく、安全性や管理のしやすさを考えて、軍手の色は選ばれているのです。
こんな機能も!特殊な軍手
一般的な用途を超えて、特定の危険から身を守るために開発された「特殊機能軍手」もたくさんあります。これらはまさに、プロフェッショナルのための道具と言えるでしょう。
- 耐切創(たいせっそう)手袋:前述のアラミド繊維や、高強度ポリエチレン繊維といった「切創抵抗力」の高い特殊な糸で編まれた手袋です。カッターナイフやガラス、薄い鉄板などを扱う作業で、うっかり手を滑らせても、簡単には切れにくいように作られています。解体業、板金加工、段ボールの開梱作業などで働く人の手を守ります。
- 耐油手袋:ニトリルゴムなどで全面をコーティングし、油が内部に一切染み込まないように作られた手袋です。油まみれの部品を扱ったり、油圧機器をメンテナンスしたりする際に欠かせません。
- 防振手袋:チェーンソーやグラインダー、削岩機といった、激しい振動を発生させる工具を使う人のために作られた手袋です。手のひらに厚い防振材(特殊なゲルやゴム)が取り付けられており、工具から伝わる振動を吸収・減衰させることで、振動障害のリスクを低減させることを目的としています。
- 静電気対策手袋:手袋の素材に「導電糸」と呼ばれる電気を通す特殊な糸を編み込むことで、人体に溜まった静電気を安全に逃がす機能を持たせた手袋です。ほんの少しの静電気でも故障の原因となる、精密な電子部品や半導体を扱う工場などで使用されます。
- 耐熱手袋:アラミド繊維や、革、シリカ繊維といった非常に熱に強い素材で作られた手袋です。溶接作業の火花や、高温の金型、焼きたてのパンなど、高温物から手を保護するために使われます。キャンプでの焚き火やダッチオーブン料理など、アウトドアシーンでも一つあると非常に便利です。
- 防水手袋:手袋の表面をゴムや樹脂で完全にコーティングし、水の侵入をシャットアウトする手袋です。水産加工や、ビルメンテナンスの清掃作業、冬場の洗車など、手を濡らさずに作業したい場面で活躍します。
これらの特殊な手袋は、一般的な軍手に比べると高価ですが、それぞれの作業に潜むリスクを考えれば、必要不可欠な投資と言えるでしょう。自分の作業にどんな危険があるかを正しく理解し、適切な機能を持った手袋を選ぶことが、何よりも大切です。
あなたの作業にピッタリはどれ?シーン別・軍手の選び方
さて、ここまで軍手のゲージ(編み目)、素材、加工について詳しく見てきました。これらの知識を総動員して、具体的な作業シーンごとに、どのような軍手が適しているのかを考えていきましょう。もちろん、これが唯一の正解というわけではありませんが、軍手選びのヒントにしてみてください。
DIY・日曜大工
趣味でDIYを楽しむ方が増えていますが、意外と手を怪我しやすいシーンでもあります。ノコギリやカッターで切ったり、木材のささくれが刺さったり、金槌で指を打ったり…。
求められる性能
ある程度の丈夫さと保護性能は必須です。それに加えて、工具をしっかり握るための滑り止め機能、そしてネジや釘といった細かい部品を扱うためのフィット感も欲しいところです。
選び方のポイント
バランスの取れた選択肢としては、10ゲージの混紡素材に、ドット状の滑り止めが付いたタイプがおすすめです。保護性、作業性、コストのバランスが良く、幅広いDIY作業に対応できます。もし、より細かい組み立て作業や塗装作業がメインになるなら、指先の感覚を重視して13ゲージのポリウレタンコーティング手袋を選ぶと、作業がグッとはかどるでしょう。逆に、解体作業などハードな内容の場合は、7ゲージの厚手タイプで安全を優先するのも良い考えです。
ガーデニング・農作業
土いじりは楽しいものですが、土の中には何があるかわかりません。小石やガラス片が混じっていることもありますし、植物のトゲが刺さることも。また、土や肥料で手が汚れるのも防ぎたいですよね。
求められる性能
土汚れを防ぐ性能はもちろん、突き刺しへのある程度の強さが求められます。長時間作業することも多いので、通気性も重要です。また、スコップなどの農具をしっかり握るためのグリップ力も必要になります。
選び方のポイント
土が手袋の中に侵入してくるのを防ぐには、編み目が細かいものか、コーティングされているものが適しています。おすすめは、手のひら側をゴムでコーティングした背抜き手袋です。手のひらからの土の侵入を完全に防ぎつつ、甲側は編み地のままなので通気性が良く、蒸れにくいです。素材は、グリップ力に優れる天然ゴムコーティングが良いでしょう。バラの剪定など、トゲのある植物を扱う際は、手首までしっかり覆うロングタイプや、革製の頑丈な手袋を検討するのも一案です。
引越し・荷運び
引越しや大きな家具の移動は、とにかく「滑らせない」ことが重要です。大切な家財を落として壊してしまったり、足の上に落として怪我をしたりするのを防がなければなりません。
求められる性能
何よりも強力な滑り止め性能(グリップ力)が最優先です。段ボールや家具をしっかりと掴む力が求められます。また、荷物の角から手を保護するための、ある程度の厚みとクッション性、そして長時間の作業に耐える耐久性も必要です。
選び方のポイント
この用途で最も信頼性が高いのは、7ゲージの厚手軍手に、手のひら全体を天然ゴムでコーティングしたタイプです。厚手の生地が手をしっかり保護し、天然ゴムの強力なグリップ力が、荷物をがっちりホールドしてくれます。まさに「引越しのプロ」が使っているようなイメージの手袋ですね。ドット状の滑り止めでもないよりはマシですが、本格的な荷運びには、やはり手のひらコーティングタイプが安心感が高いでしょう。
清掃・掃除
家の中の掃除から、地域の清掃活動、ビルメンテナンスまで、清掃作業に軍手は欠かせません。ホコリやカビ、ゴミなどから手を守り、衛生的に作業を進めるために必要です。
求められる性能
まずは汚れの防止です。そして、洗剤や漂白剤といった薬品を使う場面も多いので、ある程度の耐薬品性も考慮したいところ。また、汚れたら洗って繰り返し使いたいので、洗濯に強く、乾きやすいことも重要です。
選び方のポイント
素材としては、汚れが落ちやすく乾きも早いポリエステルや混紡素材が向いています。水を使うことが多いなら、手のひらだけをコーティングした背抜きタイプや、手首まで覆われた全面コーティングの防水手袋も便利です。特に、強力な洗剤を使う場合は、ニトリルゴムでコーティングされた耐薬品性の高い手袋を選ぶと、手荒れの防止に繋がります。用途に応じて、薄手のフィット感重視のものと、水や薬品を防ぐコーティングタイプを使い分けるのが賢い方法です。
アウトドア・キャンプ
自然の中で過ごすアウトドアも、軍手が大活躍するシーンです。テントの設営、薪割り、焚き火の管理、熱い鍋の取り扱いなど、素手では危険だったり、手が汚れたりする作業がたくさんあります。
求められる性能
アウトドアで最も注意したいのは「火」です。焚き火やバーベキューコンロなど、高温になるものに触れる機会が多いため、耐熱性は非常に重要な性能になります。また、ナイフで薪を削ったり(フェザースティック作り)、斧で薪を割ったりする際には、手を保護する丈夫さや耐切創性も求められます。
選び方のポイント
火を扱う場面では、熱で溶けやすい化学繊維(ポリエステル、ナイロン)の軍手は避け、綿100%の厚手の軍手を選ぶのが基本です。さらに安心感を求めるなら、溶接作業にも使われるような革製の手袋(レザーグローブ)を用意するのがベストです。革は熱に強く、非常に丈夫なので、焚き火から調理、薪割りまで幅広く活躍してくれます。耐切創手袋も一つ持っていくと、ナイフワークなどを安全に楽しむことができます。
防災用として備える
地震や台風などの災害時、軍手は命を守るアイテムにもなり得ます。ガラスの破片が散乱した場所での作業や、瓦礫の撤去、救助活動など、素手では非常に危険な状況が想定されます。
求められる性能
防災用の軍手に最も求められるのは、手の保護性能です。特に、ガラス片や釘、金属片などによる突き刺しや切り傷を防ぐ性能が重要になります。また、瓦礫などをしっかり掴んで撤去するために、強力な滑り止めも必須です。
選び方のポイント
防災リュックに入れておくべき一双としては、厚手の生地に、手のひらをゴムでコーティングしたタイプがまず挙げられます。グリップ力と、ある程度の突き刺し防止効果が期待できます。さらに万全を期すなら、耐切創手袋を備えておくことを強くおすすめします。ガラスの破片などを扱う際に、その性能が大きな安心に繋がります。防災用として備える際は、普段使いの安価な軍手とは別に、保護性能を最優先した、少し頑丈なものを選んでおくと良いでしょう。
長く使うために!軍手のお手入れと保管方法
お気に入りの軍手や、高機能な軍手は、できるだけ長く大切に使いたいものですよね。軍手は消耗品ではありますが、正しいお手入れをすれば、寿命を延ばし、快適な使い心地をキープすることができます。ここでは、軍手の洗い方から干し方、保管のコツまでをご紹介します。
正しい洗い方
作業で汚れた軍手は、雑菌の温床にもなりかねません。こまめに洗濯して清潔に保ちましょう。ほとんどの軍手は家庭用の洗濯機で洗うことができますが、ちょっとした工夫で、よりキレイに、より長持ちさせることができます。
- ひどい汚れは予洗いする:泥やペンキ、油などがベットリと付いている場合は、いきなり洗濯機に入れるのは避けましょう。他の洗濯物を汚したり、洗濯機の故障の原因になったりする可能性があります。まずは、外でブラシを使って大まかな汚れを払い落とします。油汚れの場合は、作業着用の洗剤や固形石鹸などを直接汚れに擦り込み、もみ洗いしておくと、汚れが格段に落ちやすくなります。
- 軍手だけで洗うのが理想:軍手に付着した土や砂、油などが、普段着の衣類に移ってしまうのを防ぐため、できれば軍手だけでまとめて洗うのがおすすめです。量が少ない場合は、汚れてもいいタオルなどと一緒に洗いましょう。
- 洗濯ネットを活用する:軍手を洗濯ネットに入れて洗うのは、非常に効果的な方法です。まず、他の洗濯物と絡まるのを防ぎます。特に、滑り止め付きの軍手は、他の衣類に引っかかって生地を傷めてしまうことがあります。また、洗濯槽の中で揉まれる際の摩擦を軽減し、手袋本体や滑り止め部分の劣化を防ぐ効果も期待できます。
- 洗剤は通常のものでOK:基本的には、普段お使いの洗濯用洗剤で問題ありません。ただし、油汚れがひどい場合は、前述の通り、作業着用の強力な洗剤で予洗いするのが効果的です。漂白剤の使用は、色落ちや素材の劣化を招く可能性があるので、手袋の洗濯表示を確認してからにしましょう。
干し方のコツ
洗い終わった軍手を、何も考えずにパンパンと干していませんか?干し方にも、軍手を長持ちさせるためのポイントがあります。
- 日陰で干すのが基本:特に、ゴムでコーティングされた手袋や、ポリエステル・ナイロンなどの化学繊維で作られた手袋は、直射日光(紫外線)に弱い性質があります。長時間、強い日光に当てていると、ゴムが硬くなったり、ひび割れたり、繊維が劣化して強度が落ちたりする原因になります。風通しの良い日陰で、じっくり乾かすのが長持ちの秘訣です。
- コーティング手袋は裏返して干す:手のひら側がゴムでコーティングされた背抜き手袋は、汗をかくと内側が湿っぽくなりがちです。洗濯後、そのまま干すと内側が乾きにくいことがあるため、一度裏返してから干すのがおすすめです。内側までしっかり空気に触れさせることで、雑菌の繁殖や嫌な臭いを防ぐことができます。ある程度乾いたら、もう一度表に返して干すと完璧です。
- 手首の部分を挟む:洗濯ばさみで干す際は、指先ではなく、手首のゴム編みになっている部分を挟むようにしましょう。指先の形が崩れるのを防ぎ、乾いた後もスムーズに手にはめることができます。
適切な保管場所
洗い終わった軍手を、どこにしまっていますか?適当に工具箱に放り込んだりしていませんか。適切な場所に保管することも、大切なポイントです。
- 湿気を避ける:湿気の多い場所に保管すると、カビや臭いの原因になります。工具箱や物置の中でも、できるだけ風通しの良い、湿気の少ない場所を選びましょう。
- 直射日光を避ける:干すときと同様、保管場所も直射日光が当たる場所はNGです。紫外線による素材の劣化を防ぐため、光が当たらない箱や引き出しの中にしまいましょう。
- 左右をペアにしておく:軍手あるあるですが、「なぜか片方だけ見つからない…」という経験はありませんか?洗い終わって乾いたら、左右をきちんと揃えて、ペアで保管する習慣をつけましょう。輪ゴムで束ねたり、専用のクリップを使ったりするのも良い方法です。次に使いたいときに、サッと取り出せてストレスがありません。
少しの手間をかけるだけで、軍手はあなたの期待に応え、長く活躍してくれます。大切な「相棒」として、ぜひ丁寧なメンテナンスを心がけてみてください。
もっと知りたい!軍手にまつわる豆知識
ここでは、知っていても直接作業の役には立たないかもしれないけれど、誰かに話したくなるような、軍手にまつわる面白い豆知識をいくつかご紹介します。軍手への愛着が、さらに湧いてくるかもしれませんよ。
軍手の歴史
冒頭でも少し触れましたが、軍手のルーツは旧日本軍にあるとされています。大正から昭和初期にかけて、兵士が砲弾を扱ったり、陣地を設営したりする際の作業用手袋として、厚手の綿で編まれた手袋が支給され始めました。これが「軍人用手袋」、略して「軍手」の始まりと言われています。
当時はまだ縫製技術が中心で、縫い目のないシームレスな編み手袋は画期的なものでした。その後、自動手袋編機が開発・普及するにつれて、大量生産が可能になります。そして戦後、復興期の日本において、安価で丈夫な軍手は、土木作業、建設、工場など、あらゆる「ものづくり」の現場で働く人々にとって、なくてはならない存在となりました。日本の高度経済成長を、文字通りその手で支えてきたのが軍手だと言っても過言ではないでしょう。今やその活躍の場は日本国内にとどまらず、世界中の作業現場で「Gunte」として知られるようになっています。
左右兼用はなぜ?
ほとんどの軍手が、右手用・左手用の区別なく、どちらの手にもはめられるように作られています。これも、よく考えられた非常に合理的な工夫の表れです。
- 製造コストの削減:右手用と左手用を別々に作る必要がないため、製造工程がシンプルになり、コストを大幅に抑えることができます。これが、軍手の安さの秘密の一つです。
- 経済性と効率性:作業をしていると、利き手側の手袋だけが先に破れたり、汚れたりすることがよくあります。もし左右が決まっていたら、片方がダメになっただけでもう一組使えなくなってしまいます。しかし、左右兼用なら、破れた方だけを交換すればOKです。残った片方は、次の新しいペアの片方が破れたときに使えます。非常に経済的で、無駄がありません。
- 緊急時の利便性:緊急時や、急いで手袋をはめなければならない場面で、左右を確認する必要がありません。暗い場所でも、焦っていても、サッと手に取って装着できるという利便性は、作業の現場では大きなメリットになります。
この左右兼用というスタイルは、軍手の機能性を象徴する、シンプルながらも偉大な発明と言えるでしょう。
「イボ付き軍手」の「イボ」の正体
滑り止め付き軍手の代名詞、「イボ付き軍手」。あの手のひらのブツブツ、通称「イボ」は、一体何でできていて、どうやって付けられているのでしょうか。
あの「イボ」の正体は、主に「塩化ビニル樹脂(PVC)」です。塩化ビニル樹脂の粉末を、可塑剤(かそざい)という薬品と混ぜてペースト状にします。そして、手袋をはめた状態の「手型(てがた)」に、そのペーストを点状に付着させ、オーブンで加熱します。すると、ペーストが溶けて、冷えると固まり、あの「イボ」が軍手にしっかりとくっつく、という仕組みです。滑り止めドットの大きさや配置、密度などを変えることで、グリップ力の強さや、通気性の良さを調整しています。普段何気なく見ているあの「イボ」にも、実は化学の力が応用されているんですね。
軍手とSDGs
最近よく耳にする「SDGs(持続可能な開発目標)」ですが、実は軍手の世界にも、その流れは確実にやってきています。その代表例が、「リサイクル素材」を使った軍手です。
私たちが飲んでいるペットボトル。このペットボトルは「ポリエチレンテレフタレート(PET)」という樹脂からできています。この使用済みペットボトルを回収し、洗浄・粉砕してフレーク状にし、それを溶かして細い糸に再生する技術があります。この糸が「再生ポリエステル繊維」です。
この再生ポリエステル繊維を使って作られた軍手が、今、数多く市場に出回っています。性能は、通常のポリエステル(バージンポリエステル)から作られた軍手とほとんど変わりません。私たちがリサイクル素材の軍手を積極的に選ぶことは、ゴミの削減や、新たな石油資源の使用を抑制することに繋がり、環境負荷の低減に貢献します。軍手を選ぶ際に、素材の欄に「再生ポリエステル」や「エコマーク」といった表記がないか、少し気にしてみてはいかがでしょうか。身近な軍手選びも、地球の未来を考えるきっかけになるのです。
まとめ:自分に合った軍手で、安全・快適な作業を!
いやはや、軍手の世界、いかがでしたでしょうか?「ただの白い手袋」というイメージから、その奥深さや機能性の高さを少しでも感じていただけたなら幸いです。
編み目の細かさを表す「ゲージ」、それぞれの特性が光る「素材」、そして作業効率を格段に上げる「滑り止めなどの加工」。これらの要素が複雑に組み合わさることで、私たちの作業内容に最適化された、多種多様な軍手が生まれているのです。
この記事では、あえて特定の商品名やランキングを一切出さずに、軍手そのものの知識に焦点を当ててきました。それは、皆さんに「宣伝文句」に惑わされるのではなく、ご自身の頭で考え、ご自身の作業に本当に必要な性能を見極めて、最適な一双を選んでほしい、という思いがあったからです。
- どんな作業で使いますか? (DIY、ガーデニング、引越し?)
- どんな危険から手を守りたいですか? (汚れ、切り傷、熱?)
- どんな性能を重視しますか? (フィット感、グリップ力、耐久性?)
これらの質問を自分に問いかけ、この記事で得た知識をヒントにすれば、きっとあなたにとって最高の「相棒」となる軍手に出会えるはずです。自分にピッタリの軍手は、作業の安全性を高めるだけでなく、作業そのものをより快適で、楽しいものに変えてくれる力を持っています。
さあ、次の作業は、あなた自身が選び抜いたこだわりの一双と共に、始めてみませんか?


